TOMPKINSブログ

パネライムーブあれこれ

TOMPKINS 水戸

こんにちは、TOMPKINS水戸の大橋です

前回のブログで予告した通り今日はパネライのムーブメントを整理してご案内しましょう
長文になりますのでどうぞよろしくお願いいたします


まずパネライのムーブメントはOPムーブメント(OP.Xなど)とP.OOOOムーブメントの二つに大別することができます。

OPムーブメントは1990年代から現在まで使われているムーブメントで、他の会社のムーブメントを改造、再調整するなどして搭載しているものです。

ETA 社製のものがベースになっている場合が多いですが、過去にはデッドストックのオールドムーブメントやゼニス社のハイビートクロノグラフ・エルプリメロ、ジャガー・ルクルトの8日巻きムーブメントが使用された例もあり、実はお宝が積まれている場合もあったりします
まだまだ現役のものもあるのですが、ここ数年は次に紹介する自社開発のP.OOOO系ムーブメントの開発が進んでいるのでOPムーブメントは縮小傾向にあります。



自社開発のムーブメントは2005年に発表されたP.2002を皮切りに駆動時間や巻き上げ方法の違う多様なタイプを揃えています。

以下にその代表的な種類を紹介します


①P.2000系
基本スペック:手巻き トリプルバレルによる8日間パワーリザーブ 28,800振動毎時


記念すべき自社開発第一号ムーブメントで10年経った現在でもフラッグシップの地位を譲ることのないハイスペックムーブメントです。3つのゼンマイを搭載することで8日以上の駆動時間の確保とハイビートによる高精度を両立しましたが、それでは飽き足らずにGMT機能やパワーリザーブ表示、ゼロリセット機能までが加えられていてまさに全部載せと言えるムーブメントです。同系列では自動巻き化された10日間パワーリザーブのタイプやワンプッシュクロノグラフを追加したタイプもあります。

②P.3000系
基本スペック:手巻き ダブルバレルによる3日間パワーリザーブ 21,600振動毎時


ケースサイズ47mmのモデルに用いられるパネライ随一の大きさを持つ手巻きムーブメントです。裏蓋から覗くムーブメントがケース一杯に広がり、大きなテンワ(往復運動する金色の輪)がロービートでゆったりと優雅に動く様は見ていて心が和みます。

③P.4000系
基本スペック:マイクロローター自動巻き ダブルバレルによる3日間パワーリザーブ 28,800振動毎時


マイクロローターは自動巻きムーブメントを薄く作りたい時に有効な方法ではありますが、ローターが大きい通常の自動巻きに比べると巻き上げの効率が落ちやすい特徴があるなど設計には独自のノウハウが必要になります。それゆえパテックフィリップやショパールなどごく一部の超高級ブランドでしか採用されていませんでしたが、パネライはP.4000の開発でこれらに堂々と肩を並べています。



④P.5000系
基本スペック:手巻き ダブルバレルによる8日間パワーリザーブ 21,600振動毎時


ハイスペックな多機能ムーブメントを目指したP.2000系とは違い、極力シンプルな作りでロングパワーリザーブを狙った2013年発表の手巻きムーブメント。
8日巻きというパネライならではの特徴と優れた生産性を兼ね備えたベーシックムーブメントとして年々搭載モデルが増えています。 

⑤P.9000系
基本スペック:自動巻き ダブルバレルによる3日間パワーリザーブ 28,800振動毎時


2009年から生産されるパネライを代表する自動巻きムーブメントで、3針からGMT機能付き、パワーリザーブ表示付きなどバリエーションに富んでいます。近年ではフライバッククロノグラフを追加したP.9100も加わっています。



⑥P.999
基本スペック:手巻き シングルバレルの2.5日パワーリザーブ 21,600振動毎時


他の大型ムーブメントとは明らかに設計思想が異なる小径・薄型ムーブメントです。
頑丈さに配慮した現代的なムーブメントを好むパネライですが、P.999だけは繊細なドレスウォッチに相性のいい古典的な設計にしました。ケースサイズ42mmの小振りなラジオミールでしか使用されない稀少性もウリでしょう。




以上、現在製造されているパネライ自社開発ムーブメントを振り返ってみました。

P.999を除いた総ての自社開発ムーブメントに言える特徴として、


①複数のゼンマイを搭載(マルチバレル化)している。

②テンワをフリースプラング化している 。

③大きく分厚い地板とブリッジで歯車を抑えている。
が挙げられます。


①については、駆動時間が延長することにより便利というだけでなく、ゼンマイの発するパワーが長時間安定するので狂いの変化を少なくすることが出来ます。


②も精度に関わる部分で、時計が衝撃を受けるなど悪い影響が及んだときでも狂いが出づらくします。


③は耐衝撃性の向上や経年劣化の抑制などがその利点になります。


ちなみに②のフリースプラングは多少専門的な話になってしまうのですが、興味がある方のために以下にその仕組みを説明してみます。





通常伝統的な時計の進み遅れは、ごく単純に言い換えるとメトロノームの重りを上下に動かしてペースを変えるのと近いイメージになります。
(正確には調整方法やその仕組みは時計とは違うので悪しからず!)
重りを上に動かすとペースは遅く、下に動かすとペースが早くなりますね。



image


この重り、動かすことで進み遅れを比較的簡単に調整することが出来るのですが、時計の場合は強い衝撃が加わると重りが動いてしまって狂いが増えてしまいます。

そこでこの重りを排したのがフリースプラングというつくりです。
重り自体が無くなったので衝撃を受けても重りが動いてしまう心配はなくなりますが、進み遅れを調整する為に重りを動かす方法とは違ったより緻密な仕組みを採用する必要があります。

つまりフリースプラングは高精度を目指す時計にとっては採用するメリットがある仕組みですが、高い技術力と時計製造のノウハウがないと実現出来ないのです!




話を戻すと以上①②③の特徴からパネライの自社開発ムーブメントは高精度と耐久性を兼ね備えた実用性の高いものであることが分かりますが、2005年から現在までに開発したムーブメントの数はなんと18種類にも及びます
この旺盛な開発力は老舗の時計メーカーにも勝るとも劣らないものです



二回に渡ってお送りしましたが、独自の歴史を持つレトロなケースデザインと実用的でバラエティーに富んだムーブメント、その二つが渾然一体となっているところにパネライの大きな魅力があると私は感じています
活字ばかりの読みづらいブログでしたがここまで読んでいただきありがとうございました
まだ語りきれない部分もありますのでこの続きはTOMPKINSで実物を見ながらお話ししたいと思います